「水のようであれ」

　ブルース・リーは、主演映画「燃えよドラゴン」において用いたカンフーで一世を風靡した人気俳優であるだけではなく、様々な武術を研究し独自の武術を後世に残し伝えた武術家でもありました。ジークンドー（截拳道）がそれです。ジークンドーは、ブルース・リーの遺産として現在も研究されており、それは武術というよりも哲学と呼ぶのにふさわしい、完成された思想です。
　ジークンドーに記された言葉は、闘うための心がけでありながら、私たち俳優が観客の前に立つ時の心がけにとてもよく似ています。俳優として感覚で捉えていたことを言葉に当てはめてみると、何が足りていないかがわかるような気がしました。
　アクションの見事さに目を奪われがちですが、そもそもブルース・リーは子役からスタートしたそうですから武術家よりも俳優の方が長いキャリアですし、隙のない緻密な演技を折り重ね作品の中で一人の人間として生きてみせることができる素晴らしい俳優であったのです。
　【Actor’s JKD】 は、演じることにおける哲学として、ジークンドーを借用してまとめたものです。
この試みは、ブルース・リー財団日本支部最高顧問の中村頼永氏の承認のもと、1996年10月から四回にわたってインターネットの「ぴあ大学／演劇学部・前川麻子研究室」に連載され、これはその改訂版となります。文中ゴシック体の箇所はすべてビデオ『ブルース・リーの遺産　格闘芸術ジークンドー』（福昌堂）に収められたブルース・リーの発言から引用しました。